×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
曽→芭
そして旅は始まった。
「本当に僕でいいんですか。」
春も盛り。桜が満開になる頃、芭蕉庵に一人の客が来ていた。
「うん。だって曽良くん東北の地理にも詳しいでしょ?」
後世に『おくのほそ道』として知られる旅がこの時計画されようとしていた。芭蕉は地理にも詳しく、真面目な性格で金銭管理もできる弟子、曽良をこの旅の随行者に選んだのだった。
「僕と行っても楽しくないでしょう。」
「何で?」
「何でって・・・」
曽良は何故自分が選ばれたのか分からなかった。自分のような冗談ひとつ言わない、何を言っても笑わない人間と旅に出たところで楽しいわけがあるまい。折角の東北歌枕でさえ、澄んだ気持ちで見なくては美しさがくすんでしまうかもしれない。
「楽しいか楽しくないかは行ってみなくちゃ分からないじゃない。それに曽良くんと居て悪い気分になったことなんてないよ。」
「はあ、そうですか。」
彼が良いと言うならそれで良いのだが。しかし曽良にはもうひとつ問題があった。
(こればかりは話すことはできない。でも、長い旅だ、いつ僕の口が滑るか――――)
それから数ヶ月。曽良は旅の行程、日程を完璧に組み立ててきた。
「芭蕉さん、これでよろしいでしょうか。」
芭蕉は彼の作った計画表を隅から隅まで読んで、言った。
「・・・うん、良いと思うよ!この計画なら私の衰えた脚でも行けそうだ。」
(行けるに決まってるでしょう。貴方の脚のことを最優先に考えて作ったんですから。)
「でも、ここを一日で、って短すぎない?山道でもないし、もうちょっと歩けるよ。」
「いえ、そこには長い上り坂があって、しかもあまり良い道ではないみたいなんです。」
「へえ、そこまで細かく考えてるんだね・・・」
もう一度、へえ、と感嘆の声をあげ、芭蕉は指で地図をなぞっていく。その指を曽良は無意識に目で追っていた。
(どうして、こんな爺に僕が惹かれる?)
現に今も曽良は地図をなぞる芭蕉の手に釘付けだった。歳を重ねるにつれて骨ばっていく手、潤いを無くす肌。誰だって若い女性の手の方が良いに決まってる。だが曽良は芭蕉の手がどうしようもなく好きだった。その手から生み出される俳句は曽良の世界そのものだ。
「曽良くん、手・・・」
「・・・・・・え、」
いつのまにか曽良は芭蕉の手を掴んでいた。
「どうしたの?」
気付かないうちにそんな行動に出ていたとは。曽良はいつもの自分ではありえないほどに動揺していた。表情にこそ全く出さなかったが。
「・・・いえ、ここはこちらから先に回るんです。」
地図をなぞっていた形そのままの手を正しい道筋へ導いてやる。
「あ、そうなんだ。」
その後は自然に手を離した。
師匠の家から帰る途中で曽良は考えた。あと一ヶ月もすれば師匠との二人旅は挙行されるであろう。この気持ちは伝えるわけにはいかない。伝わってはならない。悟られてもならない。
しかし僕は堪え続けられるだろうか。どうか、この旅が何事も無く終わりますように。あの人を傷付けませんように。
そして一ヵ月後、旅は始まる。
and, I am bound by his words.
(思えば、僕はあの頃から彼の言葉に縛られていたんだ。)
PR
更新情報
5/22 細道一点
注意書き
日和、歴史系二時創作小説取り扱いサイト。
閲覧は全て自己責任でお願いします。
閲覧後、気分を害されましても管理人は一切責任を負いません。
差別的発言等相応しくない表現、また史実に沿わない表現があろうかと思います。
しかしあくまで一個人の思想、一個人の作品であることを予めご了承願います。
二時創作ですが掲載されている作品の著作権は管理人にあります。
無いとは思いますが、盗作・転載等はお止め下さい。
基本的に各キャラの性格や関係はそのお話ごとに違うと思って下さい。
つまり同一人物ではない、ということです。
同じとみなしてしまうと色々こんがらがってしまうと思います。
それを踏まえた上で御覧になって下さい。
日和→細道中心に、飛鳥、天国。受け攻め関係ない。話によって蕎麦だったり芭曽だったり、色々。シリーズ越えもするかもしんねえぜ。
バサラ→今はほぼ更新停止状態。真田主従、サナダテ、時々瀬戸内。こちらもあまり受け攻めは関係ない。
閲覧は全て自己責任でお願いします。
閲覧後、気分を害されましても管理人は一切責任を負いません。
差別的発言等相応しくない表現、また史実に沿わない表現があろうかと思います。
しかしあくまで一個人の思想、一個人の作品であることを予めご了承願います。
二時創作ですが掲載されている作品の著作権は管理人にあります。
無いとは思いますが、盗作・転載等はお止め下さい。
基本的に各キャラの性格や関係はそのお話ごとに違うと思って下さい。
つまり同一人物ではない、ということです。
同じとみなしてしまうと色々こんがらがってしまうと思います。
それを踏まえた上で御覧になって下さい。
日和→細道中心に、飛鳥、天国。受け攻め関係ない。話によって蕎麦だったり芭曽だったり、色々。シリーズ越えもするかもしんねえぜ。
バサラ→今はほぼ更新停止状態。真田主従、サナダテ、時々瀬戸内。こちらもあまり受け攻めは関係ない。
管理人
禮鴻 彪
2月7日生まれ。
太子と一緒の誕生日。
暇があれば妄想をしているちょっと残念な人。時間を持て余すことなど・・・ない!
今は日和中心だが歴史系には常に飢えている。普通に歴史小説も読むし、色々勉強したりもするが、ゲームをすることも多い。
BLにおいて受け攻めの拘りはない。リバ、いいよね!
2月7日生まれ。
太子と一緒の誕生日。
暇があれば妄想をしているちょっと残念な人。時間を持て余すことなど・・・ない!
今は日和中心だが歴史系には常に飢えている。普通に歴史小説も読むし、色々勉強したりもするが、ゲームをすることも多い。
BLにおいて受け攻めの拘りはない。リバ、いいよね!