せかい

僕の世界の創造者。

「ねえねえ曽良くん、これどうかなあ」
芭蕉さんは僕に短冊を見せました。
それには彼の字で十七音の言の葉が綴られていました。
「いいと思います。」
僕は素直に感想を述べました。
きれいな、きれいな、ことばたち。
芭蕉さんの手によって描かれたせかいにそのことばたちは散らばっていきます。
そして自分達の役割をきちんと果たして、自分達の居るべき場所で輝いています。
星が燃えているように、月が地球の周りをまわるように、僕が、芭蕉さんの側に居るように。
不変のそれはいつまでも輝いて残ることでしょう。
そういえば間違えましたね、僕が芭蕉さんの側に居ることは不変ではないでしょう。
いずれ、僕が去るか、彼が居なくなるかするからです。
僕と芭蕉さんで違うことは、僕が去っても彼はせかいを創り続けるだろう、ということ。
僕の場合、それは当てはまりません。
もし、芭蕉さんが居なくなれば、僕もまた同じように居なくなるからです。
僕という箱はあっても、その中身は無くなるからです。
いや、箱が崩れ去って、中身が消える、と言ったほうがいいでしょうか。
ともかく、芭蕉さんはせかいなのです。
せかいの、創造者なのです。
生まれ持ったその才能でせかいを次々と生み出すのです。
彼のせかいはとても住み心地が良く、幸せです。
僕のように汚れた心を持つものでも、綺麗になったんじゃないかと勘違いさせてくれるほどに。




うぬぼれるな、と声がします。
そうですね、僕は綺麗になんてなっていない。
一度汚した手は戻らない。
彼の墨で汚れた手とは違うのです。
けれども、今だけは勘違いさせてください。
彼の、隣に在ること、それは事実ですから。

















そうして僕は、
　　　
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