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ホラー日和、第一話。
曽良くんが神道に通じていたという史実から、妄想を繰り広げた結果、とんでもないことになった。
曽良くんが陰陽道っぽいこともしてる、芭蕉さんが憑かれやすい体質、などなど、へんてこワールドですが、それでも良いって方はお読み下さい。
題は暫定。また変わると思う
芭蕉さんには"拾って"くるクセがある。
「曽良くん!遊びに来たよ!」
それは真冬の日。芭蕉さんが家に訪ねてきた。
「チッ、」
「うわっ、師匠が来たのに舌打ちってどういうこと!?」
まただ。芭蕉さんは"拾って"きたとき、必ず僕の家に来る。それを"棄てる"のは僕の役目だと言わんばかりに。僕は顔をしかめて言った。
「・・・アンタ、お稲荷様に行ってきたでしょう。」
「・・・へ?そうだけど、どうして分かるの?曽良くんエスパー?」
僕はまた舌打ちをした。畜生、厄介なモノ"拾って"きやがって。
僕の目には、芭蕉さんの肩に居心地良さそうに乗っている狐が見えた。それは僕が芭蕉さんに何か話す度にこちらをぎろりと睨む。
これは一筋縄ではいかない。いつもの断罪ごときじゃ去ってはいかないだろう。
僕がそれと睨み合いをしていると、芭蕉さんは台所に行った。勝手知ったる家だ、僕が茶すら淹れようとしないので諦めて自分で淹れに行ったのだろう。
あれをそのままにしておくと、いずれは芭蕉さん自身にも危害が及ぶ。早急に処分しなくてはならない。だが、どうする。
大体僕は専門ではないのだ。狐となると、流石にその道に通ずる者が行わなくては、むしろ術者が危ない。確かにそれができる知り合いはいる。腕も確かだ。だが、仮にも俳諧の聖と呼ばれる松尾芭蕉が狐に憑かれたなど、あってはならないことだ。江戸だけじゃなく至る所に松尾芭蕉を神とまで崇める俳諧師もいる。松尾芭蕉が穢れてはならない。
その知り合いを信用してないわけではないが、口を滑らさないという確信もない。そうなるとやはり、自分が行わなくてはならないだろう。ああなんと面倒な。いつからだ、僕が彼に憑いたものを祓うようになったのは。
「ねぇ曽良くん、曽良くんってば!」
茶を淹れに行っていた芭蕉さんがいつの間にか僕の目の前にいた。大分長いこと考え込んでいたようだ。
「大丈夫?お茶、曽良くんの分も淹れたよ。」
「ああ・・・どうも・・・」
やはり依然として狐はいる。今は首に巻き付いてうとうとと舟まで漕いでいる。これが本物の狐なら高級な襟巻きだ。
「・・・芭蕉さん、今日は泊まっていきなさい。」
僕の発言に芭蕉さんは虚を突かれたようで、目をまんまるにした。
「・・・え?どうしたの曽良くん、今日はなんか変だよ。」
「いいから泊まっていきなさい。」
「・・・うん。」
芭蕉さんは未だ首を傾げながら、それでも承諾した。
僕の居ないところで狐に何かされれば芭蕉さんはひとたまりもないだろう。しばらくは僕が見張っておくことにした。芭蕉さんを家に引き留める理由など幾らでも思い付く。
僕がそれを"棄てる"まで。一緒に居て貰いますよ、芭蕉さん。
夜も更けて、芭蕉さんと僕は奥州への旅でしたように、同じ部屋に床を延べ、眠りについた。芭蕉さんはとうの前に眠りに落ちているが、狐は依然起きている。僕が寝るのを待っているかのように、こちらをずっと見ているのが分かる。僕はそれに決して目を合わそうとはしなかった。一度目を合わしてしまえば、逸らすことはできない。先に逸らした方が負ける。今日は憑いたばかりだ、何もしないはずである。僕は浅い眠りについた。
一刻程寝ただろうか、僕は音に目を覚ました。普段なら物音などで起きるはずはない。明らかに異常なのだ。ごろん、ごろん、と何かが転がっているような。
それは不意に僕の枕元へ現れた。僕は目を見開き、息をのんだ。僕の足元から枕元まで転がってきたもの、それは女の生首であった。長い髪が乱れ、どこが顔だか分からない。しかし、その目だけが妖しく光って僕を見た。こちらを向いているのだと分かった。そして、口が裂け、両端がゆっくりと持ち上がり、にたりと笑いの表情を作った。黄色い歯と真っ赤な歯茎がのぞく。その口はぐわと開き、僕に襲いかかって―――
恐怖が全身を駆け巡る前に跳ね起き、布団の中に抱いていた脇差を抜きざまにそれへと叩きつけた。斬った感触は無かった。代わりに、刃は畳を斬り、刺さった。
「そ、らくん・・・?」
しまった、芭蕉さんが起きた。僕は素早く脇差を鞘におさめ、布団の中に隠した。
「すみません、起こしましたか。」
「どうしたの、何か音がしたけど・・・」
「何もありませんよ」
「そっか、私の気のせい、か・・・」
そのまま芭蕉さんはまたすうすうと寝息を立て始めた。
それにしてもさっきのは何だ。狐が僕を化かしたとでも言うのか。僕は芭蕉さんの枕元で身体を丸めている狐を見た。すると狐は片目だけを開け、僕を一瞥すると、にやりと笑った。こいつ、僕を眠らせないつもりだ。ならばこちらにも考えがある。僕は立ち上がり、部屋を出た。確かここにしまっておいたはず。戸棚を探っていると、目当てのものは案外早く見つかった。真言の書かれた札だ。部屋に戻ると、僕の手にある札の気配に気付いたのか、狐は丸めていた身体を起こし、こちらを睨みつけながら毛を逆立てて威嚇している。それを尻目に、僕は自らの布団の四隅に札を置いた。真言を二回唱える。狐は威嚇するのを諦め、芭蕉さんを盾にするようにして隠れた。もうこれで先程のようなことは起こるまい。しかしこの札も今夜のみだろう。狐ほどのあやかしならばこの程度の札を使った結界など破ることは容易いはずだ。
ともかく寝よう、明日からは寝られるかどうか分からないのだ。
翌日。僕は芭蕉さんより早く起きた。狐は僕の起きたのに気付いて顔を上げたが、興味無さそうに鼻を鳴らして再び寝入った。
僕は二人分の朝食を用意し、芭蕉さんを起こすことなく自分だけ食べた。もう一人分は膳に綺麗に並べて置いておいた。ついでに置き手紙も認めておく。僕は素早く身支度をして家を出た。
向かうのは山奥。休みなく早足で歩いていくと、真冬の寒い朝にも関わらず、目的の場所に着くころには汗ばんでいた。
僕の目の前にあるのは、冷たい水を湛えた小さな滝壺。滝というには落ちる水の量が少ないような、そんな滝壺だ。僕はじっとりと汗を吸った着物の帯を抜き、肩から落とした。そして下帯のみで滝壺の浅瀬に座り込む。まだ日の上がりきらぬ朝のことだ、風は容赦なく吹き付ける。だが寒さは感じない。僕は真言を唱え始めた。
寝返りをうち、仰向けになった。目を開けると、部屋は薄暗かった。見慣れぬ天井。そうだ、曽良くんの家に泊まったんだった。曽良くんはまだ寝ているだろうか。隣に目を向ける。
「あれ・・・」
そこには彼の姿どころか床さえあらず、私はこの部屋に一人だった。寝過ごしたのだろうか、しかし日の具合から見てまだ卯の刻と思われる。私がいつも起きる時間ぐらいだろう。私は床から出て、枕元に置いてあった着物を着た。きゅっと帯を締めると背筋が伸びて目が覚める。ふと曽良くんの布団が敷いてあったろう場所を見ると、畳に傷がついていた。相当大きな傷だ。こんなもの、あったろうか。私は屈んで、その傷を撫でた。そうだ、何か、刀で斬ったような、そんな傷。しかし曽良くんが部屋の中で刀を振り回すとは考えられない。首を捻り考えたが、答えは出てこなかった。依然不思議に思いつつも自らの床を片し、部屋を出た。
「曽良くん?」
どこか部屋で本でも読んでいるのだろうと思って、大きな声で呼んだが、いくら呼べども返事は無い。
「どこ行っちゃったんだよ、もう、師匠を置いて!・・・ん?」
居間に入ると、そこには膳が置いてあった。横には曽良くんの字で何か認めてある手紙。私はそれを取り上げた。
「"あさげです"。」
簡潔な文章。うん、とっても分かりやすい。悪い言い方をすればとってもぶっきらぼう。でも私は彼が優しさを上手く表現できない人間だということを知っている。もう一度手紙を見て、思わずくすりと笑ってしまった。
汁物を温め直して、茶碗に飯を盛った。
「いただきます。」
まずはお吸い物。椀の縁に口を付けるとふわりと柚子の香りがした。そのまま一口飲む。あ、おいしい。私だってずっと一人暮らしだから料理は上手い方だと思う。けど、このお吸い物は負けたな。私よりも上手い。
他のものにも手を伸ばし、一品一品感動しながら食べた。
「あーおいしかった!曽良くんが帰ってきたら作り方教えて貰おーっと。」
膳を片して、皿や茶碗を洗ってる間に帰ってくるだろうと思っていた。しかし片付けも終わり、日が完全に昇っても曽良くんは帰って来なかった。何もすることがないので勝手に本を借りて読んでいると、巳の刻を告げる鐘が遠くから聞こえた。
「遅いなあ曽良くん・・・どこ行っちゃったんだろ・・・」
心当たりは全くないが、ともかくも捜してみることにした。玄関で草履を突っかけ、外に出た。
町の方だろうか、何か買い物にでも行っているのだろうか。しかし買い物にしてはこの時刻まで帰ってこないのはおかしい。余りにも心当たりが無さ過ぎて、家から出たはいいものの、そこから動けない。
「よし、やっぱり町に行こう、何か事故があったのかもしんないし。弟子の身の心配もするなんて、流石は松尾!」
やっと決めて、町の方角へ踏み出した瞬間、後ろから声を掛けられた。
「芭蕉さん、」
「曽良くん!」
「何してるんですかそんなとこで一人ぶつぶつと・・・そこは僕の家なんですよ、頭おかしい人が出入りしてると思われるじゃないですか。」
「き、君ねぇ・・・そんな言い方は無いだろ・・・」
曽良くんは私が今向かおうとしていた町とは正反対の、山へ向かう道から帰ってきた。良かった、入れ違いになるところだった。
「全くどこ行ってたんだよー師匠を置いてどっかいいとこ行ってたんじゃないだろうな!」
「違います、山菜を採りに行ってたんですよ。」
確かに、曽良くんの手には山菜の入った籠。
「それならそうと言ってくれたら松尾も手伝ったのに。」
「芭蕉さんと行くと倍以上疲れるんで。」
「ちょ、どういう意味だよ!」
「そのままです。」
曽良くんは私の隣をすり抜け、玄関を開けて中へと入った。私もそれに続く。
ふと曽良くんの頭が目に入った。あれ、曽良くんの髪、何だか濡れてる・・・?雨なんて降って無かったと思うけど。まあ、いいか。朝霧か何かで濡れたんだろう。今はそれよりも。
「曽良くん、朝ご飯ありがとう。すっごくおいしかった。」
「・・・どうも。」
「あのお吸い物、どうやってだし取ってるの?かつおだと思ったんだけど、それだけじゃないみたいだし。」
「また今度教えてあげますよ。」
「ほんと?ありがとう!」
私は曽良くんの手にある籠を取った。
「朝作ってくれたからお昼は私が作るよ。この採ってきてくれた山菜で何かしようか。」
「別に、芭蕉さんはゆっくりしててくれたらいいですよ。」
確かに、泊めて貰ったわけだから、人の家で何かするのは逆に失礼かもしれない。が、何せ勝手知ったる家なのだ。台所のどこに何があるかなど、今更教えられることもない。
「いいって、いいって。山入ってきたんだから疲れてるでしょ。曽良くんこそゆっくりしてなよ。」
無理矢理居間へと押し込み、自らは台所に立った。さて、山菜尽くしのお昼とするか。
居間で暇を持て余した僕は、新しい札でも作ることにした。台所に立った芭蕉さんがこちらに来ることはないだろうから、今のうちに作っておこう。
あの山菜は誤魔化しの為でしかなかった。僕は滝壺で禊ぎをした後、とある神社の倉庫に忍び込んだ。そこで資料を漁り、必要なもの、かつ信憑性の高いものだけ頭に叩き込んできた。もう少し調べたかったが、余りにも帰りが遅いと芭蕉さんに怪しまれるし、長居をすると忍び込んだことが露見する可能性もある。僕は本や資料を元あった位置に正確に戻し、倉庫を出た。そうしてもう一度禊ぎをし、帰り道に山菜を採りながら大急ぎで帰ってきたのだった。
一枚、札が書けた。資料に載っていたものそのままだ。もう一度、書いた札と頭の中にある札とを見比べて、良しと判断すると後は量産に取りかかった。
とりあえず十枚。文箱に丁寧に収める。それをあの狐に気取られないよう特別な封をして別の部屋にある戸棚へとしまった。
芭蕉さんはどのくらいまで作っただろうか。台所へ様子を見に行く。
「芭蕉さん、どうですか。」
台所をのぞくと、そこにいるはずの芭蕉さんの姿が無い。外の井戸で山菜を洗っているのだろうか。勝手口から外へ出る。
「芭蕉さん?」
そこには見慣れた淡い緑の着物に身を包んだ芭蕉さんがうつむけに突っ伏していた。
「芭蕉さん!」
駆け寄って抱き起こす。身体を揺さぶって声を掛けるが返事はない。顔面蒼白だ。何が起こった?
すると狐が目に入った。ふさふさした尾を誇らしげにしならせて、こちらを見ている。
「お前か。」
思わず唸るような声で言った。狐は小首を傾げてすうっと消えた。
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更新情報
5/22 細道一点
注意書き
日和、歴史系二時創作小説取り扱いサイト。
閲覧は全て自己責任でお願いします。
閲覧後、気分を害されましても管理人は一切責任を負いません。
差別的発言等相応しくない表現、また史実に沿わない表現があろうかと思います。
しかしあくまで一個人の思想、一個人の作品であることを予めご了承願います。
二時創作ですが掲載されている作品の著作権は管理人にあります。
無いとは思いますが、盗作・転載等はお止め下さい。
基本的に各キャラの性格や関係はそのお話ごとに違うと思って下さい。
つまり同一人物ではない、ということです。
同じとみなしてしまうと色々こんがらがってしまうと思います。
それを踏まえた上で御覧になって下さい。
日和→細道中心に、飛鳥、天国。受け攻め関係ない。話によって蕎麦だったり芭曽だったり、色々。シリーズ越えもするかもしんねえぜ。
バサラ→今はほぼ更新停止状態。真田主従、サナダテ、時々瀬戸内。こちらもあまり受け攻めは関係ない。
閲覧は全て自己責任でお願いします。
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しかしあくまで一個人の思想、一個人の作品であることを予めご了承願います。
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無いとは思いますが、盗作・転載等はお止め下さい。
基本的に各キャラの性格や関係はそのお話ごとに違うと思って下さい。
つまり同一人物ではない、ということです。
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それを踏まえた上で御覧になって下さい。
日和→細道中心に、飛鳥、天国。受け攻め関係ない。話によって蕎麦だったり芭曽だったり、色々。シリーズ越えもするかもしんねえぜ。
バサラ→今はほぼ更新停止状態。真田主従、サナダテ、時々瀬戸内。こちらもあまり受け攻めは関係ない。
管理人
禮鴻 彪
2月7日生まれ。
太子と一緒の誕生日。
暇があれば妄想をしているちょっと残念な人。時間を持て余すことなど・・・ない!
今は日和中心だが歴史系には常に飢えている。普通に歴史小説も読むし、色々勉強したりもするが、ゲームをすることも多い。
BLにおいて受け攻めの拘りはない。リバ、いいよね!
2月7日生まれ。
太子と一緒の誕生日。
暇があれば妄想をしているちょっと残念な人。時間を持て余すことなど・・・ない!
今は日和中心だが歴史系には常に飢えている。普通に歴史小説も読むし、色々勉強したりもするが、ゲームをすることも多い。
BLにおいて受け攻めの拘りはない。リバ、いいよね!